(20世紀SMビデオベスト297 解説)
SMマニア掲示板で20世紀SMビデオベスト10をやったらどうだという常連さんの書き込みがあり、管理人がこれに乗った形で今回のSMビデオベストの企画が誕生した。54名の常連さんにご応募頂き、1位と2位は決選投票という大激戦のうちに、ベスト297が決定した。54名という有効投票数が多いかどうかはさておき、20世紀のSMビデオの雌雄を決するという企画はSMビデオファンにとって意義のあったものではないかと、自画自賛している。
1.ベスト作品の傾向
1位から4位をシネマジックが独占。ベスト10のうち、シネマジックが7本、アートビデオは2本だけだけだった。動くSMグラビア的淫靡さをもった80年代のアートビデオが上位を独占するのではないかと思っていた私には、これは意外な結果で、アートの淫靡さをシネマジックのドラマ性が凌駕したということか。
1位はシネマジック同士で争い、「ボディコンハンター4」(野村理沙)が最終的に20世紀SMベストビデオとなった。女優、男優、脚本、責めの内容、カメラワーク、どれを取っても文句のつかようがない作品ではあるが、日本的SMの持つ暗さ、淫靡さ、耽美性は少ないように思える。2位から4位も同様の特徴を持った作品で、投票の結果から現代のマニアの嗜好が見えてくるような気がして来て興味深い。アートビデオは5位と6位に登場するが、ベスト10には2本のみの入賞だったということも、昔のアートビデオの特色が現代ではもはや受け入れられなかったということか。
9位まで大手SMビデオメーカーが占め、10位に突然Bettyの「女体実験」(石原めぐみ)が来るというのも面白いと思った。この作品への投票は3名だけだったが、3名ともベストワンとしていて、20世紀ベスト10への入賞となった。石原めぐみは根強いファンが多く、女優別ベスト10でも1位となった。
10位から20位を見ると、それぞれの作品の根強い人気が改めて認識できる。個人的には「生贄の季節」(島崎里矢)がもっと評価されても良いのではと思った。シネマジックの製作による大洋図書の作品が1本のみ、人気のある蛇縛シリーズも1本のみというのは意外だった。やはり、セルビデオはまだまだ主流ではないということだろう。
21位以降もマニア垂涎の作品が並ぶ。SMメディアの主流が映画からビデオに移行するときに劇場公開された「好奇心2」(佐伯りか)とアートビデオの初期作品の傑作「SM陰獣」(田口ゆかり)がともに23位だっというのは、何か奇縁のようなものがあるようで面白い。シネマジックの往年の名作「シスターL」「シスターL2」(菊地エリ)「インモラルブルース」(島崎梨乃・高橋めぐみ)「大阪の女」(姫ゆり)はぎりぎり同得点でベスト30入りし、面目躍如というところだろうか。
2.レーベルについて
|
83〜85年 |
86〜90年 |
91〜95年 |
96〜2000年 |
合 計 |
|
|
アートビデオ |
144 |
415 |
86 |
174 |
819(34%) |
|
シネマジック |
71 |
261 |
572 |
214 |
1,118(46%) |
|
大洋図書 |
0 |
0 |
74 |
10 |
84(3%) |
|
奇譚クラブ |
0 |
0 |
19 |
9 |
28(1%) |
|
アタッカーズ |
0 |
0 |
0 |
66 |
66(3%) |
|
その他 |
28 |
46 |
135 |
113 |
322(13%) |
|
合計 |
243 |
722 |
886 |
586 |
2,437(100%) |
今回のベスト297は投票者に最大ベスト10まで好きなビデオを投票して頂き、そのベストワンに10点を付け、順位が下がっていくにつれて1点ずつ得点を少なくしてゆくという計算方法で行った集計結果による。投票された全作品の得点をレーベル別、製作年度別に再集計したものが上記表であるが、この表から以下のことが見えてくる。
○20世紀のSMビデオは総得点のうち80%をアートビデオとシネマジックの大手2社が占めるが、わずかにシネマジックがアートビデオに勝った形になった。
○アートビデオはSMビデオ黎明期に順調な滑り出しを見せ、80年代の終わりに黄金時代を迎える。黎明期から既に「SM陰獣」(田口ゆかり)「愛奴・K」(中川えり子)「愛咬」(伊藤清美)等の名作を生み出し、80年代末にかけて「美畜4」(小泉ケイ)「隷奴・亜理沙」「肉の華」(加賀恵子)「蜜肉の罠3」(早川睦美)を発表して黄金時代を迎えた。90年始めから峰一也がイカせモノを作るようになり、この時期アートビデオの特徴であったSM的淫靡さが著しく衰退する。アートビデオの得点が415点から86点に激減するのは、それを如実に物語っていると言える。96年以降復調の兆しを見せるのは、夢流ZOUあるいは彼の弟子たちの活躍によるものと考えられる。
○一方、20世紀の覇者となったシネマジックは、黎明期はアートビデオに1歩譲った形となった。シネマジックは最初からストーリーを重視した丁寧で明るい作品を基調とし、SMグラビアが動くだけでありがたかった当時の視聴者には、アートビデオほど受け入れられなかったのかもしれない。しかし、80年後半からシネマジックの作品も視聴者に支持されるようになる。「インモラル女高生」(島崎梨乃)「インモラルブルース」「魔性の柔肌」(松田知美)「愉芽の絆」(岡本百合)は今でも熱狂的なファンが多い。90年代になるとシネマジックは「インモラル天使」「奴隷秘書」シリーズといった長寿シリーズを発売するようになり、アートビデオが後退を始めた95年にかけて、シネマジックは黄金時代を迎えることになる。「ボディコンハンター4」「インモラル天使3」(西尾美樹)「被虐のフライト」(浅間夕子)「背徳の絆」(藤原美玖)は、この時代の作品である。シネマジックの場合、得点が261点→572点→214点と、アートビデオに比較して堅実な動きを見せている。これは上記の長寿シリーズを持つレーベルの強みだろう。
○今回の企画では、アートビデオとシネマジック2大メーカーの強さを再確認することになった。大洋図書は90年代前半にアートビデオに迫る奮闘を見せたが、結局90年後半にかけて製作本数そのものが激減した。奇譚クラブも牧野ちひろやナオミのような看板女優がいない現在では低迷した。アタッカーズは90年後半に登場し、得点も66点を稼いだが、2大メーカーに比べるとまだまだ認識度は低いと言わざるを得ない。
21世紀になって新たな人気メーカーが登場するのか、楽しみなところだ。
2.女優について
54件の投票を主演女優別に再集計した結果、1位は石原めぐみとなった。ただ、今回の投票は女優そのものの人気投票ではなく、高評価の作品に主演した割合の高い女優の順位である。例えば、90年代を代表するSM女優の小泉しおりは27位と順位が低い。これは彼女の主演作が多く、かつ人気が高いにも関わらず、主演作品には意外に恵まれなかったことを示す。
したがい、今回の女優別ベスト20の再集計を行ったが、この結果は参考程度にとどめるべきだろう。いつか「20世紀SM女優ベスト」という企画をやっても面白いかもしれない。
3.監督について
1位が峰一也、2位が川村慎一と、それぞれアートビデオとシネマジックを代表する監督が上位を占めた。この結果は誰もが予想した範囲であり、また1、2位が3位と大差をつけたことも予想の範囲だった。
1位の峰一也はアヴァの社長で、日本SMビデオ界の最大の功労者と言って良いだろう。シネマジックと全く違う作風で作られた日本的SMの世界は80年代のSMマニアを狂喜させた。80年代のアートビデオの傑作は殆どが彼の演出によるものであり、2位と160点以上の差をつけての堂々のベスト監督となった。ただし、90年代になるといわゆるミネックモノ、80年代のアートとは全く違う作風(個人的にはSMマニアを舐めるなと言いたくなるような作風)の作品を作るようになり、アートビデオから傑作が生まれなくなる。上記の表で80年代後半のアートビデオが415点という高得点を示すように黄金時代を迎えるのは彼のおかげであり、90年代の前半一気に86点と激減するのは彼のせいである。ひとりの人間が最大の功労者であり、同じに最大の戦犯であるというのも面白い。
2位の川村慎一はオーソドックスな演出でドラマとしても見られる作品を作り、責めもそこそこ重視する優等生タイプの監督と思う。監督作品は「インモラル天使3」「被虐のフライト」「被虐の女戦士 1・2」(栗田もも・藤原美玖・葉山美姫・野口由香)「生贄の季節」「奴隷秘書4」(美咲舞)「大阪の女」「インモラル天使」(相原めぐみ)とシネマジックを代表する名作が並ぶ。どれも美しい作品で、女優の良さが引き出されている。
2位に200点以上の差を付けられたと言え、3位の中野D児は意外だった。「シスターL」の演出をしているとは言え、監督作品はそう多くない。ただ、SM作品に彼独特のフェチ色を混在させたという功績は認めるべきだろう。
4位の大沼栄太郎は明智伝鬼と組み、「奴隷秘書17」(森原由紀)のような傑作を残した。ただ、監督作品の絶対数は多くないものの、この位置にいるというのは立派と思う。
5位の黒田透の監督作品は中野D児とは違ったフェチ色を持つものが多い。6位の夢流ZOUと同一人物という意見もあるが、真偽のほどは定かでない。
7位の石川欣は奇譚クラブでの監督として知られているが、シネマジックでも「くノ一狩り〜縄抜けの術敗れたり」(露木陽子)のような傑作を監督している。
8位のハリー杉乃は寡作だが、「ボディコンハンター4」の演出でここに位置した。
9位の吉村彰一はシネマジックの社長。監督作品は「背徳の絆」「愉芽の絆」が印象に残っているが、むしろ製作者として、日本のSMビデオに貢献した人物と言ってよいだろう。
10位の雪村春樹もかろうじてベスト10入りした。筋が難しく、責めも靴の上から足を掻くようなもどかしいものが多いが、緊縛された女性を美しく見せる技術はピカイチと思う。
11位の斉藤茂介がここに位置できたのは意外だった。監督作品が多いということか。
12位の志摩紫光も固定したファンが多いが、志摩ビデオがアートやシネマジックに比べると支持が少なかった。「亜美」(四季綾香)は面白い作品だと思うが、ランクも低かった。
以下、マニアにとってはお馴染みの顔ぶれが並ぶ。全体的にも、監督のランキング結果は予想の範囲だったような気がする。
今回のベスト297で「被虐の女戦士」が高く評価されたように、SMビデオにVシネマ並の出来を期待するマニアも増えてきた。これからのSMビデオは女優と責めだけでなく、監督の技量も重要になって行くのだろう。
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「20世紀SMビデオベスト297」はたくさんの方の協力で完成しました。54名の投票者の他、締切以降も無効を承知で投票して下さった常連さんも2名いらっしゃいます。また、多くの常連さんから画像を頂きました。さらに、ダメ元でアートビデオさんとシネマジックさんに画像の掲載許可をお願いしたところ、快く承諾下さいました。この場を借りて、心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました。
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